ブルベの暦の上では新年となる昨年11月。早いうちに長い距離を走っておきたい気持ちもあったが、前年参加できなかった河内長野スタートの紅葉を見に行く200kmブルベがまた開催されると分かり、エントリーすることにした。諸事情でブロンプトンで走ることにした。本当は”準備編”から書きたかったのだけど、現在故障でショップに預けており、写真の撮り直しや細々した確認ができないので本編を先に書くことにした。
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<目次>
□ 動機と勝算
□ 準備
□ 往路輪行
□ 奈良へ
□ 室生川
□ 香落渓
□ 吉野川・紀の川
□ 紀見峠
□ 所感
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□ 動機と勝算
まずはなぜブロンプトンで行こうと思ったのか。ブルベの前日夜に、ラファ大阪で三船雅彦さんのLEL(ロンドン-エディンバラ-ロンドン)参加レビューが開催されることが分かったので、速攻申し込んだ。ふと現実的になって当日の動きを考えると、輪行状態のロードバイクを持って大阪駅近辺をうろうろしてラファ大阪に行った後、なんば駅まで出て周辺で宿泊、もしくは乗り換えで南海高野線沿線に宿泊する、というのはとんでもない苦行に思えた。そこで、ロードバイクではなく通勤に使っているブロンプトンS6L(6段変速)で行こうと思いついた。

コースを見てみると、200kmで獲得標高2500mとやや登るプロファイル。登りを中心に眺めると、きつそうなところでも10%以上の勾配はなさそうだ。ブルベは終盤まで平地巡行20km/hをキープできれば完走できる感覚なので、まずブロンプトンにGPSサイコンを取り付けて、通勤時にどれくらいの速度で走っているかを確認した。平地ですんなり25km/h出ていたので、200kmなら何とかペースを保てるだろうと思った。ブロンプトン乗り・ブロンプトンオーナーのウェブサイトをいろいろ調べてみると、速度は平坦も登り下りもロードバイクと比べて10%くらい落ちるらしい。自分で走ってみても、およそそれくらいの数値だったので納得がいった。普段、400km以下のブルベの目標タイムは山岳系を除いて17km/hというざっくりペースで計算していて、そこからたいてい貯金が残る。10%落ちるなら17km/h×0.9=15.3km/hとなり、200kmの最低速度約14.8km/hを上回る。ブロンプトンでの1日最長走行距離はせいぜい30km程度だったが、200kmならトラブルがなければ完走できると判断した。
□ 準備
今までブロンプトンは適当にしか乗っていなかった。が、ブルベに使うとなると突如手を加えたくなった。まずいつも適当だったサドルの高さを決めた。最近はサドルハイトインサートというサドル高の上限を決めるアイテムが標準装備されているが、私が買った頃にはなかったので取り寄せた。サドルの位置が決まるとブレーキの角度に違和感が出たので角度を変更。長距離で少しでもポジションに変化をつけられるように、ブルホーン型のハンドルグリップに変更、多少前傾姿勢にもなれる角度にした。靴はアウトソールが硬めのゴアテックス(GORE-TEX)のウォーキングシューズを購入し、余っていたソールスターのツアーインソールを挿入。これだけで、今まで発進時に電動自転車に負けていたが、いい勝負ができるようになった。心なしか、足の筋肉への負担も減った気がする。これまで一生懸命漕いだ力は、速度ではなくアウトソールの変形にでも変わっていたのだろう。


ブロンプトンはコンパクトなベルが標準装備だからブルベ向きだよね、などと思う。
ハード面の準備はまずまず順調だったが、ソフト面というか、パンク修理(後輪着脱)までは覚えることができず、パンク即DNFの運任せでの参加となった。ウォーキングシューズにした理由の1つは、パンクしたら駅まで歩かなければならないからだった。
□ 往路輪行
前夜、家からラファ大阪まではプロマリンの2ウェイキャリーを背負って自走した。

(Amazon)
背中が真っすぐになって姿勢の自由度がなかったり、発進のときにキャリーの車輪がサドルに当たったりで、とても漕ぎにくかった。大阪駅に到着したら、ブロンプトンの輪行袋として有名なIKEAのDIMPAにブロンプトンを入れて、キャリーに載せてコロコロ移動した。車輪が2つしかないので想像以上に引くのに力が必要で手が痛い。ないよりマシ、と自分に言い聞かせながら歩いた。
三船さんの濃厚なLEL話をみっちり1時間半聞いた後、なんば駅に出て南海線に乗り換え、堺駅から徒歩10分強の前泊のホテルへ。この周辺はホテル代が全体的に高く、出してもよいと思える費用だと駅からそれなりに離れることになり、キャリーが活躍した。”キャリー代を上乗せすれば駅近のホテルでも余裕なのでは?” というツッコミはしてはいけない。
翌朝、チェックアウトしてホテル前で輪行を解除し、キャリーを背負って堺東駅まで2kmほど走る。大阪府内でなくて旅行気分になっていれば迷わずタクシーを使っている距離だったが、とにかくタクシーは使いたくなかった。”ブロンプトンでブルベに出るための準備や対策に掛けた費用があればタクシーに何度も乗れるのでは?” というツッコミはしてはいけない。
□ 奈良へ
駅に着いたら輪行を解除し、フロントバッグやサドルバッグを取り付け、装備を取り出して準備。準備だけはロードバイクより格段に楽。キャリーのほうは折りたたんで養生してビニール袋に入れ、受付時に宅急便の着払い伝票と一緒に手荷物預かりへ。主催者さん、「ミニベロで来てる人いる~と思ったら(笑)」と名前を覚えてもらえていた。「このコースでやる~?(笑)」と言われつつも、キャリーには特にツッコミなく預かっていただけたので、こういう預かり物もよくあることなのかもしれない。

趣のある駅の時計の写真を撮っていたとき、Twitter相互のたにやんさんに話し掛けられる。なぜ分かったのか尋ねると、サドルバッグにピカチュウが付いていたからと。ブルベぬいぐるみ同盟という文化があって、1年ほど前からピカチュウをお供にしているのだが、自転車が変わっても気づかれるのだからすごい効果である。
車検を済ませたら少し早めにスタートしてもOKとのことで、最初だけでもと、前のほうでスタートした。速度のロスがあるので、利用できるものは何でも利用するつもりだった。早々に国道310号線の登りが始まり、後ろから徐々に抜かされていく。紅葉の名所、延命寺を通り過ぎたはずなのだけど、全く記憶にない(汗) ブロンプトンはギアが6段階しかなく、重いと当然トルクを掛けないといけないから足が疲労するし、ギアが軽すぎるとケイデンスを上げやすいポジションではないので進まない。ちょうどよいギアにするのが難しい。左手外装2段と右手内装3段をガチャガチャする度に足を緩めて失速するので、ギアを変えるのは少しでも少なくしたい。ブルホーン型のハンドルのグリップを利用して、前乗りを保ちやすくして重めのギアでも漕げるようにしたのはよかったのだが、やはり序盤で結構足腰が疲れてしまった。一方で、ケイデンスは増えないので、息が切れるようなしんどさは全くなかった。
金剛トンネルを抜けると奈良県の表示が現れた。ちょうど少し前にTwitterで、奈良から大阪に抜ける交通の便がよくないことを比喩したTweetを見たので、”あぁ~確かに(笑)”と思ってしまった。
奈良から大阪へ行くには通行手形が必要なのです。
奈良県民は、皆一生に一度は花の都大阪を見物したいと思っていますが中々叶いません。
奈良民「し…死ぬ前に一度高島屋に行ってみたかった」
大阪民「何、高島屋に行きたいだと?生意気を言うな!奈良県民はイオンで惣菜でも買ってろ!」#翔んで奈良— 卑屈な奈良県民bot (@nntnarabot) November 17, 2022
金剛トンネルからの下りはきつくて蛇行で見通しが悪く、できる限り後輪荷重を意識して減速しながら慎重に下った。ロードバイクならカーブで車体を寝かせてタイヤで路面をグリップする感覚を持ちながら下ることができるのだけど、ブロンプトンではそうはいかない。タイヤはContinental CONTACT URBAN(コンティネンタル コンタクト アーバン)で評判は悪くはないのだけど、安心感がない。乗り方で改善できる余地はあるのだろうか?(情報求む)
下り切ってからしばらくはロードバイクの後ろに着かせてもらう。ブロンプトンでの自分のブレーキ技術には不安があるので、あまり車間を詰め過ぎないように気を付ける。でもそもそも、ギアをトップにして足をぶんぶんして漕がないとついていけない。ロードバイクの走行性能はチートである。こうして42km地点の通過チェックのコンビニに着いた時刻は、ロードバイクでの目標時間を上回っていて、何とかなりそうな気がした。
□ 室生川
ここからはほぼ1人旅で、ただひたすら登った。序盤に比べればきつくはないが、足が疲れていて重くなってきていた。56km地点PC1のコンビニまでおよそ1時間、14km/hで来れた。ブリーフィングでここまであまり貯金ができないことは聞いていたので焦らずに済んだ。貯金がほとんど減らなかったので、ちょっと完走への希望が増した。
国道369号線・栂坂(とがさか)バイパスに向かってただひたすら登り、弁財天トンネル、石楠花(しゃくなげ)トンネルを越えると、やっと次の目的地の室生寺への下り坂に入れた。ここまでの登坂で足と背筋だけがやたらと疲れていた。張り切り過ぎて、少しずつギアが重めだったのだと思う。

室生寺は紅葉狩りの観光客で賑わっていた。ここでご飯やおやつを食べた参加者も多かったようだ。

室生川に沿って下っていく。それほど広くない川幅で、やや丸い中くらいの大きさのごろごろした岩が多く、紅葉によく合っていた。
折り返し地点にあたる三重県名張市の通過チェックのコンビニまでも下り基調だったが、足・背筋の疲労が抜けきらず、着いたときにはお年寄りのような体の運びだった。食欲もあまりなく、昼食として食事っぽい物を食べる気が起きず、炭水化物に偏ったスイーツを補給食のように食べことにした。体を削った甲斐はあって貯金は少し増え、とりあえずこの日一番の目標の香落渓(かおちだに・こおちだに)は射程圏内に入った。
□ 香落渓
コンビニから6km進んで香落渓トンネルを抜けて香落渓へ。青蓮寺川(しょうれんじがわ)に沿って登っていく。





真っ赤ではない紅葉だが、黄葉や柱状節理の岩肌と組み合わさって絶妙に美しく見えた。今回のロードブックに「上を向きすぎて落車しないように。」と書かれていたが、つい上を見ずにはいられない光景だった。
写真を撮るために何度も止まり、上を見ながらゆっくり進んだため、登りにも関わらず足腰はかなり回復したし、登った記憶もあまりなかった。再び奈良県に入り、関西のキャンプ場でよく地名を目にする曽爾(そに)村を通り過ぎる。なかなか高規格なキャンプ場が見えた。名張まで輪行すれば子どもとも来れそうだ。
□ 吉野川・紀の川
曽爾村から国道369号線・栂坂バイパスを経て吉野に戻る。1,827mある栂坂トンネルは登りで、すごく長く感じた。途中で後続のロードバイクの参加者に追いつかれ、トンネル内で追い越したくない様子だったので遅くて申し訳なく、この日ここで初めて息が上がるまで漕いだ。しんどかった…。
あとは下り。チェックポイントを見逃さないように注意しながら、奈良カエデの郷ひららに到着。先に着いた人たちが写真を撮っているのですぐ分かった。

小学校跡地にカエデ1,200種・3,000本を植えているそうだ。カフェもあるのだが、完走第一なので先を急ぐ。
ここから吉野川を沿いを下っていく。

往路のときは気づかなかった五條のモンベル。SR600KWのチェックポイントなので、いつかのために拝んでおいた。

この辺りで夕日がきれいで、思わず足を止めた。
吉野川は和歌山県の紀の川の上流、奈良県での名前である。吉野川・紀の川沿いを走るときは登りだろうが下りだろうがいつも向かい風で苛立ちが募るのだが、この日は初めて追い風を経験した。しかも下りなのでとても快適。足腰はほぼ回復した。周りがすっかり暗くなってきた頃、トラブルがなければ完走できる、完走したいという欲が出て来た。パンク対応をマスターせずに臨んだので、ここからは自分要素のパンクは避けたいと、凸凹や変なライン取りはできる限り避けた。
□ 紀見峠
PC2のコンビニには当初の想定より1時間半早く着き、残す距離は20kmを切った。温かいカフェラテを飲んで気合いを入れる。残す登りは紀見峠。…の手前の交通量の多い国道371号線のほうが気持ち的には峠だったか。速度は分からないが体の感覚としては意外とスルスル登れた。登り切れたことがうれしくて、そばにあった撮影ポイントにもってこいの峠の看板を見落としたのが残念だった。
あとはビューンと下ってゴールのコンビニに。ブリーフィングの通り、1時間半くらいで到着した。コンビニ間の距離が短くて若干食べ過ぎだと思ったが、おいしかったので気にしないことにした。

すぐ近くのゴール受付の施設に向かい、駐輪場の入口に来たところで駐輪が有料だと分かった。なので、ブロンプトンを輪行袋ことDIMPAにしまい込んで、受付に持ち込むことにした。こういう身軽さがブロンプトンの最大の利点である。
パンク修理マスターしてなくてパンク即退場の状況でしたが、初めてブロンプトンで200km完走しました。多分一番楽しかったと思う。
メダルに刻印も入れていただいて(+¥500)、よい記念になりました。 pic.twitter.com/7ERXFTmLW7— 門川彩雷 (@ayalalmngl) November 19, 2022
いつものように記念のバッヂとメダルを買った。いつもと違うところは、メダルの裏にタイトルとタイムと名前を刻印していただいたこと。本当に記念として残すことができた。
□ 所感
今回初めてブロンプトンでブルベを走った。Garmin Edge530での走行ログを見ると累積標高は2,627mで、事前の予想に反してRide with GPSの2,536mは全く盛られていなかった。おかげで、全部のギアをまんべんなく使うことになり、6速の恩恵を初めて受けられたように思う。速さはあまり期待できないなりに、今回のように信号の少ないコースを選べば完走を狙えることが分かった。そして速く走ることを諦めた代わりに、息が上がらない余裕があることで、見えた景色、受け止めることができた光景は、普段のブルベよりも鮮やかに感じられた。これからも時々ブロンプトンでブルベに出たいと思う。パンク対応もできるようにしたい。
これを機に今年度はブロンプトンSRを狙ったが、故障で叶わなくなってしまった。通勤にも支障が出ているので早く戻って来てほしいなー…。[場所・大阪][場所・和歌山][場所・奈良][場所・三重][ブロンプトン・ブルベ]

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